グランフォンド世界選手権@パース 参戦記

今年、アマチュアレーサーの間で一定の話題性を持っていたグランフォンド世界選手権、実際に出場したので、来年以降の為に記録を残しておきたい。
(今年中に書ききりたかったので、思い出したことがあったら順次加筆訂正します)

UCIグランフォンドワールドシリーズ
プロ選手にとってワールドツアーやコンチネンタルツアーがあるのと同様、UCIはアマチュア選手向けにグランフォンドワールドシリーズという年間シリーズ戦を展開している。
グランフォンドというと日本ではサイクリングイベントを指す場合が多いが、海外ではサイクリングとアマチュア向けのロードレースが混在したものだととらえてよいようだ。
実際に世界選手権に出場した実感としては、完全にロードレースだった。そもそも各予選上位25%が集まっているので、基本的にはレース志向だったのだろう。2016年は15戦が、2017年には19戦がワールドシリーズとして実施される。

なお、ワールドシリーズと認定されるためには距離などの条件もあるようだし、また出場資格にUCIチーム所属やUCIポイント獲得者以外などとあることを考えると、 実質的にも、非コンチネンタルチーム所属選手の登録競技者の最高峰を決めるロードレースシリーズ戦と考えて問題ないだろう。

【ニセコクラシック】
昨年まで日本国内では貴重な公道のラインレースとして行われていたニセコクラシックがグランフォンドワールドシリーズに組み込まれるという事で、だいぶ話題を呼んだ。
レースのエントリーはスポーツエントリーで行い、レース展開も、基本的に沖縄の様な長距離行動ホビーレースとほぼ変わらない。アクセスは新千歳空港が近いが、それでもレース会場まで100㎞以上あるので、前泊は必須である。公道を使うこともあり、スタート時間が早いことや、スタート地点とゴール地点が同じことから、レース後すぐに移動を開始すれば、その日中に東京に戻ることは可能である。
なお、今回検車は行われなかったがJCF登録者に関してはライセンスチェックがあったので、ライセンス忘れには注意が必要である。
レース展開は様々な方のブログに書かれているのでここでは詳細は述べないが、いきなりペースが上がるということはないものの、選手間のレベルの差が大きいので、基本的には集団前方に位置取らないと上位は厳しい。特に序盤からアップダウンがあるので、登りでしっかり前に上がっておき、良い位置で下り始める必要があると思う。今年のレースは大雨だったこともあり、下りでかなり差がついており、中盤の平地では一瞬集団がかなり小さくなっていたし、後ろから確かに多くの選手が追い付いてきたものの、それらの選手は脚を使ってしまったためか、後半は全く残っていなかった。

因みにニセコはホスピタリティが高く、また那須のような高級な雰囲気で、避暑地としても楽しめそうであった。

【世界選手権エントリー】
ニセコで上位25%に入ると、世界選手権出場資格を取った旨がメールで伝えられる。メールは日本語だが、そこに貼られているエントリーサイトはもちろん英語である。基本的にはTTとグランフォンドに加えてチームリレーがあるが、チームリレーの出場要件は女性・40代・50代+1人という構成でややハードルは高い。

飛行機やレンタカー、ホテルは旅行会社に頼む手もあるし、個人的に安いところを探すのも手である。 今回はキャセイの飛行機を取り、レンタカーはAVIS、宿は安いゲストハウスを確保した。
飛行機はSkyticketというサイト(アプリもある)で自分の予定が合う飛行機での最安値を調べた。レンタカーに関してはAVIS以外にも、例えば、タイムズクラブに入っていればヨーロッパーカーの予約を取ることが出来る。ホテルは今回知り合いのつてで紹介してもらったが、例えば楽天トラベルなどで日本国内同様に予約ができる。
一方で、割と問題になったのが荷物である。今回TTバイクを持ち込もうとしたものの、キャセイではバイクは1台までとなっており、輸送する必要があった。しかし、オーストラリアの場合、Fedexでは断られ、DHLではネットでの見積もりの段階で10万を超えたため断念した。なお、単なる荷物であれば、Fedexの場合、ネットで到着予定まで調べられ、重宝しそうである。

エントリーが完了すると、主催者側から色々な連絡がくる。例えば今回の場合TTの会場がロットネスト島という離れた場所だったので、自転車をフェリーに預ける手続きが必要であったし、レースの前夜祭(BBQ)の申し込みのメールもあったし、この辺はしっかりチェックしておく必要がある。

なお、ウェアは各国代表ジャージかそれに準じたもの、と指示があったが、今回複数人がJCFに問い合わせたものの公式なサポートはないという返答で、各自が自分の所属チームのジャージに日の丸のシールを張ったりワッペンを縫い付けて出走することとなった。残念ながら、ジャージがそろっていない国は少数で、悪目立ちしてしまった気がする。一部年代では参加者間で連絡を取り合い、ジャージを揃えていたようだが、来年はそのような形で、参加予定の選手間でジャージを揃えた方が好ましいと考えられる。

今回は背中と腕の所に日の丸シールを張った
【現地到着後】
基本的には海外旅行に行ったことがあれば問題はないと思われるし、開催国に行ったことがある人に聞くのが一番だと思われる。僕自身は海外旅行経験はほとんどなかったが、今回は英語が通じる国だったので特に困ることはなかった。
ただ、検疫は少し厳しく、風邪気味だったので持っていった葛根湯が引っ掛かり、英語で説明することになった(もちろん葛根湯はドーピング検査に引っかかるので、レース直前は飲んでいないし、あくまでも治療目的である)。
また、オーストラリアだったので、英語のなまりがややあったことには最初は苦慮した。空港では問題なかったが、ホテルではフロントの人との意思疎通が極めて困難であった。もちろん徐々に慣れる。

お金に関しては、日本国内での同じ泊数の旅行で要する分だけをオーストラリアドルにして、足りない分はクレジットカードで済ませた。両替には手数料がかかるし硬貨は両替できないので、使いきる分くらいのお金を持っていくのが一番無駄がないと思われる。

レンタカーに関しては、国際免許を取っておく必要があるが、特に見せる場面もなく終わった。オーストラリアの場合は右ハンドルなので、道幅が広い分、日本より運転しやすかった。ただ、マイル表示で速度感覚がつかめなかったので、道路標識には注意し、制限速度をオーバーしないように注意した。なお、国際免許は書類を書くだけなので、このような面倒な事務手続きは早めに済ませると良いと思われる。
また、カーナビはつけなかったが、ケータイの電波が入るようにあらかじめしておいたため(例えばauであれば世界サービスを利用することで、日本同様に使用できるようになる) 全く問題はなかった。もちろん、定額でも積み重なれば大きな額になるが、海外の場合wi-fiも充実しているので、極力wi-fiを使い、試走の時など明らかにwi-fiを使えない日のみ定額サービスを利用するなどの工夫をしてコストを抑えた。
夜中に宿に到着し、翌朝早くレース会場に出発

【タイムトライアル】
タイムトライアルは今回ロットネスト島という観光地として有名な島を一周する形で実施された。フェリーの本数が少なく、早朝発だったが、仕事や学校の関係で前夜遅くに現地入りしたので、ほぼ3時間睡眠でフェリーに乗り込み、出走よりだいぶ早く現地に到着することとなった。今回は、タイムスケジュールの関係上、予め自転車を預けられなかった為、自転車をもってフェリー乗り場まで行ったところ、3人だけだったこともあり、そのままの状態で自転車を載せてくれた。
フェリーは高速船で、カフェもあったが、盛大に揺れ、割と船酔いしてしまった。
ロットネスト島は非常に風光明媚でレースで閉鎖されていない道を中心にサイクリングをしてからレース。
非常に景色がきれいな島であった

ここでJCFライセンスを見せ、エントリーの確認と、ゼッケンの配布が実施された。グランフォンドの分の受付も兼ねており、ゼッケンはグランフォンドの分まで配布された。

TTはしっかりスタート台が存在し、とても本格的。なおスタート前に検車をしたら、自転車をスタート位置から動かすことは禁じられた。全日本TTのような公式レースと同様である。不正をさせない、すなわち、グランフォンドはただのイベントではなく、真剣勝負のレースである、という事だろう。
今回は、誰でも使えるローラーが多数あった為、ギリギリまでアップしてから検車を受けた。また、日本からだと二台の自転車の持ち込みはかなりハードルが高いが、やはりTTにわざわざエントリーする選手達は、TTにかけるモチベーションが高く、ほぼ全員TTバイクだった。

レースの詳細はここでは述べないが、日本ではほとんど体験できない、テクニックと絶対的なパワーが要求されるコースだった。具体的には細かいアップダウンやコーナーがあり、例えば昨年の那須の全日本TTを更にダイナミックにした感じであった。距離は19.4㎞と短いが走りごたえがあり、渡良瀬のような単調なコースと違って非常に面白かった。しかし、外国人との体格差によりかなり厳しい戦いとなってしまった。

なお、上位5名のみドーピング検査があった(と聞いた。現地の人にいきなり結果はどうだった?薬の検査は受けたか?と聞かれて、聞き返したら上位5人は検査だ、といわれたが、その時僕は出走前だった)。

【チームリレー】
僕自身は出場していないが出場した日本人がいたので、個人的に見聞きしたことをまとめると、どうもチームリレーはTTやグランフォンドと違いイベント色がより強いようで、参加費は無料だった模様。実際エントリーの際もTTとグランフォンドだけで、チームリレーは後から来たチームリレーの案内メールに従いエントリーをする仕組みだった。実際、そのメールにも非公式であると明記されていた。
また競技内容も駅伝を短くしたような、4人で交代で走る競技のようだ。
来年以降、多くの日本人が参加するのであれば、日本人同士の交流を深める方法としてかなり最適なイベントかも知れないと感じた。

【グランフォンド】
今回、TTに参加した日本人は基本的にバイクをグランフォンドと共有していたので、TT後にバイクを預け、TTの翌日、メインの会場に自分のバイクを取りに行った。このタイミングで、グランフォンドのみ出場する選手は受付を行っていたが、TTに出場した選手に関しては、ゼッケン・フレームナンバーともに共通で、かつ再度のライセンスチェックも不要だったため、特に手続きは必要なかった。
TTが9/1、グランフォンドが9/4だった為、今回行動を共にした3人とは残りの日で、車を利用してのコースの下見と試走などを実施した。諸トラブルの影響で観光などをする時間はあまりなかったが、折角の世界選手権なので、予めしっかりコンディションを上げておき、レースの間は刺激を入れるのみにとどめ、観光に時間を割くのもよいのではないかと思う。
メイン会場付近の夜景

レース自体はニセコと同じく早朝の出走。今回に関しては、まず前半は高速道路を閉鎖した完全フラットのコースで、後半は市の中心部から外れた丘陵地帯に作られた周回コースを回る154.5㎞
レースの詳細な展開はここでは述べないが、前半は50㎞/h近いスピードでずっと進んでいき、時折アタックがかかることでかなりのハイスピードになる、日本ではなかなか体験できないレース展開だった。集団の密集度は一般のホビーレースに比べれば高いものの、おきなわの210㎞や全日本選手権には及ばない。恐らく、僕の出走した年代は出走人数が87人と少なかったこともあるだろう。また、全員のスキルがそろっており、かなり走り易かったこともそのような印象に寄与していると思われる。 余り危ない動きをしなくても先頭付近に上がることができたし、押し合うなどの危険な行為は全くなかった。
後半の周回コースは一般道なので、日本に比べて荒れているところもあり、小柄でパワーがないと無駄に力を要する印象があった。またロータリーも多く、慣れていない選手が、曲がるにも関わらず間違った方向から侵入し、集団に突っ込んで落車が発生した年代もあったようだ。
なお、真っ直ぐ通過するロータリーは海外のプロレースでよく見かけるように、旗を持った人がロータリーの存在を示していたので、問題はなかった。
なお、登りのスピードはかなり速い印象で、体格の良い外国人がパワーでねじ伏せる感じだったし、下りも体重がある選手が多い為か、かなりハイスピードだった。残念ながら体調が悪く、先頭集団に残れなかったので、これ以上言及できないが、レース後半はかなりハイレベルな戦いだったと思われる。

実際選手の体格もプロ選手の様で、日本のJPTのプロ選手達よりもさらにがっちりしていてかつ無駄な筋肉がそぎ落とされた本格的な体型だった。前西薗選手のブログで、プロチーム所属選手の身長と体重の分布が示されていたが、本当にそこに示されているようなイメージで、一般的な日本人選手より身長も高いしがっちりした体型の選手が多いように感じた。海外で活躍している日本人選手、例えばワールドチーム所属選手やNIPPOの日本人や、もしくはジュニアやアンダーで海外で走っている選手の多くが、日本人にしては高身長か(例えば別府選手など)、もしくはかなりの筋肉質な体型か(例えば新城選手など)のどちらかである理由が何となくわかる気がした。
今回は、割と路面はきれいだし、確かに休み所がないコースではあったものの、全体的にスピードコースだったのでしっかり集団が機能したが、もしこれが横風や荒れた路面のコースだったら、小柄な日本人にとってはかなり不利な戦いになるのではないかと感じた。

なおグルペットはかなりきれいに回り、Stravaで改めてデータを確認したところ、確かにきつい登りで先頭から遅れたものの、ずっと一定の差を維持しながら走り続けて、少しずつ差が広がっている、程度の感じで、そこまでスピードが遅いわけでは無かったと思う。ただ、8%ルールが適応されないことで、上位者と下位完走者の間ではかなりのタイム差があり、その辺は、いわゆる登録レースよりも甘いといえるだろう。恐らく、交通規制が解除されるまでにゴールすれば順位がついていると思われる。
やはり、各予選を通過している選手による戦いであるため、ニセコのような、いわゆるタイムアウトによるDNFは少ない印象だった。多くの場合は落車やパンク等のトラブルで競技を続行できずにDNFになっていると思われる(少なくとも同年代ではそうだった)。

【余談】
帰りの飛行機が多いに遅延し、本来月曜日の昼に帰国する予定が夜遅くの帰国となった。やはり海外遠征の場合は、かなり時間に余裕を持ったほうがよいだろう。
市内サイクリング
 また、今回はスタート地点とゴール地点が違い、自力で宿まで戻ることになった。レース中にケータイを持ち歩くわけにもいかず、標識のみを頼りにして、最後は現地のサイクリストに道を聞き、たまたま同じ方向に変える人がいたため、談笑しながら帰ることになった。いろいろ話を聞けたし、相手も日本の自転車事情に興味を持ってくれ、とても話が盛り上がった。基本的にはこのように外国人には優しい場合が多いと思うので、実り多い遠征にするためには積極的に話しかける姿勢が大事ではないかと感じた。

国内レースでいえば沖縄のような癖になる楽しさと共に、全日本のような緊張感のある真剣勝負の面も兼ね備えていて、そして国内では経験できないダイナミックなコースも相まって、もう一度挑戦したいと思わされるレースだった(実際予選であるニセコのコースも国内レースではトップレベルのダイナミックさだろう)。
国内の登録レースである程度もまれ、強くなったうえで、プロではないわけだからもう少しレースを楽しむ方向にしたい、となった時には、グランフォンドのワールドシリーズの転戦でもしてみたい、と思わせてくれる、ある意味夢を膨らませてくれる遠征でもあった。

【参考リンク】
公式写真
世界選@パースの公式HP
グランフォンドリザルト

コメント