イタリア製ハイエンドシューズ比較~Gaerne G. STILO & Crono CR1 インプレ~

*Gaerne G.STILO 2019年モデルとCrono CR1 2020年モデルのインプレです。前者は2020年モデルでも色が変わった程度で大きな変更はないようですので、2020年モデルとほぼ同じと考えて頂いてよいと思います。また基準として2015年モデルのSIDI WIREを使用しています。こちらは当時SIDIのフラッグシップだったころのWIREなので、2020年現在のSIDI SHOT相当品です(設計自体もほぼ変わっていないと思います)。

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【長ったらしい前書き】
僕自身がこだわりを持っているパーツで唯一インプレ記事を上げてこなかったのがシューズだ。というのも、脚の形というのは千差万別で、しかもソックスやペダルなど、他のパーツの影響も受けるし、正直、毎回BOAの締め付け具合も違うし、言葉だけで伝えられるものではないと考えているからだ。さらに言えば個人的にはSIDIやNorth Waveを使っているシーズンが多く、そういう定番なシューズのインプレをしてもしょうがないと考え、ついインプレ記事にしないことが多かった。
しかし、昨シーズンGaerne G. STILOを使い、今シーズンはCrono CR1とちょっとマニアックで手が出しにくいイタリアンシューズを使い続けてみたので、情報として価値が出るかな、と感じ、インプレ記事を書くことにした。

【フィット感:SIDI WIREとの比較】
SIDI SHOTが出る前の、まだフラッグシップだったころのSIDI WIREを所有しているため、まずは、それと比べた時の、シューズの形やフィット感の違いをお伝えしたい。

<色>
今回はたまたま三者とも赤だが、Gaerneの赤はオレンジに近く、SIDIの赤はいわゆる赤、Cronoの赤はえんじ色に近い、落ち着いた色味である。
※念のためですが、下の写真は標準ではないインソールの組み合わせです(Crono版SolestarインソールがGaerneに、手持ちの本家本元のSolestarがCronoにインストールされています)。

<サイズ>
SIDIに比べGaerneもCronoもわずかに大き目で、Gaerneは特に縦に大きく、Cronoは特に横に大きい印象。

<ソールのそり>
Gaerneはフラット、SIDIはややそっており、Cronoが中間といったところ。ただ経験上、GaerneもNorthwave等よりはそっており、SIDIはFizik等と比べるとフラットだと思う。


<クリートの位置>
Gaerneだけクリートがややつま先よりにある印象(写真はどれも一番踵側にセットしている)。
<フィット感>
すべてを標準のインソールに入れ替えた際のフィット感はイメージ通り、SIDIが最も硬い印象。踵も浮くのを防止するための機構があるせいか、がっちり挟まれる(調整済の場合)。なお、僕の足の場合、SIDIは標準インソールでぴったりサイズなので、それを基準に他の二者を記述したい。

GaerneはCronoほどではないがしなやかな印象で、標準インソールだとつま先が若干余る(ただ、Currex soleなどを入れて解消できる範囲)。横幅もわずかに余裕がある気がするが、Cronoほどではない。ソールが最もフラットなだけあり、アーチサポートは希薄。スプリンターには良いだろう。踵に関してもカーボンによる補強や形状の工夫、滑りにくい素材の使用がきいているのか、浮く感じは全然ない。またこれはCronoと共通だが、BOAダイアルは完全に開放できるのでSIDIのダイヤルに比べると使いやすいが、上下に厚いので落車の時には壊れそうである。
なお、僕の場合、SIDIもGaerneも基本的にはCurrex soleを入れて運用していた。そういった意味ではフィット感は近いところがあるだろう。 また、もしSIDIでちょっと窮屈な感じがしてしまう人であればむしろGaerneの方がフィットすると思う。

Cronoは最もしなやか、というより、僕の場合、つま先が縦方向にも横方向にも高さ方向にも余っているため、密着していないという面はある。標準インソールの場合、脚の形状には全くあっていないと言わざるを得ない。形としてはShimanoに近い印象(Shimanoシューズを自分では所有していないのではっきりとは言い切れないが、少なくとも僕の記憶上はShimanoよりは細身だろう;直接比較していないことからこの発言の信ぴょう性には自信がないため、実際に購入を検討される際は試着をお勧めします)。なお、素材のしなやかさに加え、形状の工夫、ワイヤー配置の工夫のせいか、足の甲のフィット感は最も良い。なお、フィット感の問題に関しては、ノーマルのSOLESTAR KONTROL(後述)を入れたらほぼ解消した。一方、BOAの位置が、落車したさいに、三者で最も壊れやすそうな位置にあるのはちょっと心配である(逆にそこを対策している製品はSIDIのSHOTくらいしか知らないが)。

Gaerne G. STILOインプレ】

Gaerneというと、超メジャーでもないがしばしばプロチームでも採用されるシューズという程度の印象だった。 とあるインプレ記事であるインプレライダーがずっとGaerneを使い続けている、という記載を見て気にはなっていたが、入手性が悪いこともあり試着する機会もなく、結局買わずに時が過ぎていた。というわけで、実は僕にとって初めて試着せずに買ったシューズがこのシューズであった。
そんなわけで期待半分心配半分といった感じであるが、結局ワンシーズン使ってみて、これまでで最も気に入ったシューズの一つになった。先述したように僕の場合インソールを入れ替えないと最も良いフィット感が得られなかった点が玉に瑕ではあるが、長距離を走る場面でも適度な剛性感とアーチサポートがあるために脚の疲労が少ないし、一方、アーチサポートが強すぎないこと、剛性が高すぎないことからスプリントもかなり伸びる。そして、剛性が高すぎないことが良い方向に働くことで平地のTTではぐいぐい踏める、という風に、もはや悪いところがない。Fizikのようなもう少しアーチサポートが強いシューズが欲しい人、Specializedのようなカントがついているシューズが欲しい人、North Waveのようなとにかくソールがフラットでスプリントに適するシューズが欲しい人、超軽量のヒルクライム向けシューズが欲しい人でなければ勧められる。SIDIのようなオールラウンダータイプであり、隠れた逸品である。まあ、結局入手性が悪いのでSIDIではなく敢えてこっちを買う理由というのがあまりないところは困ってしまうが。。。あとは、HPをみても各モデルの違いがよく分からないというのは弱点か。
どちらにせよ、かなり気に入ったのは事実で、耐久性も高いので、長期間使い続けている&リピートする可能性ありの数少ない製品である(ちなみに僕はこれまで10社以上のシューズを使ったことがあるが、リピートしたのはSIDIとNorthwaveくらいというちょっと要求が多いサイクリストである)。

Crono CR1インプレ】

このシューズの良さの一つは、先述した通り、SOLESTARのインソールがついてくることだろう(上の写真で下に写っているSolestarでないバージョンも付属する)。なお、ノーマルのSOLESTAR KONTROLと比べると、やや柔らか目でサポートも弱めである(下記写真の黄色が付属タイプ、黒×赤が市販のSolestar Kontrol)。



本音を言うと本家のSOLESTARはサポートが強すぎて硬すぎる感じがあったから、このくらいがちょうどよい。ちなみにCurrex soleと硬さは変わらないがさらにアーチサポートが強い感じであった。
シューズ自体に対してちょっと不満なのが、ソールにクリート取り付けの目安となる線が書かれていないこと。まあ、そういう目盛りはほとんど使わないといえば使わないのでなくても困らないが、あった方がセッティングしやすい気はする。
閑話休題。シューズの見た目からはGaerneと比べややアーチの彎曲が強めに思えたが、実際に使ってみるとそんなこともなく、平地でぐいぐい踏んでいくアーチサポートが欲しい場面から、スプリントや登り坂でもがくようなあまり強いアーチサポートをしてほしくない場面まで、様々な場面でオールラウンドに使える、丁度良いサポート感だった。
また、ソールはGaerneより薄くて硬め、だけどNorth Waveよりはマイルドといった感じ。立ち位置としてはソールが厚く感じる順にSIDI>Gaerne>Crono>North Waveといった感じだろう(厚く感じる=長距離レース、オールラウンダー向け、薄く感じる=スプリンター向け、と読み替えて頂いて構わない)。言い換えると、踏み味はNorthwave的な硬くて乾いた感じがあるが、その割にアーチサポートがあるおかげかふくらはぎに負担がかからない感じ。
脚の包み込まれ感もかなり良く、袋縫いをしているシューズのようであった(S-worksなどに近い?まあでもS-worksやDMTの方がより包まれ感は高いかもしれない)。
ただ、甲は高めで、つま先側も広く(かつ高く)、一般的にはアジアンフィットとか日本人向けといわれるフィット感であり、微妙につま先が動く感じが僕には合わないので、結局ノーマルのSOLESTAR KONTROLを入れることとした。そうするともちろんつま先が若干動く感じはあるとはいえ、ほとんど問題ないフィット感となった。長距離を走る場合、血流維持の観点からは悪くないかもしれない(といえる程度しか動かないのでかなり良いフィット感である)。
なお、推測だがFizikやShimanoが合う人であればそのような工夫をしなくても合うかもしれない。
デザイン的にも洗練されており、同じ赤でも一番落ち着いた赤で万人受けするだろうし、金色のようなイタリアっぽい選択肢もあるので、足元をおしゃれにしたく、かつ脚の幅が広めの方には良い選択肢の一つになる気がする。少なくとも、サイズさえ合えばオールラウンダー~パンチャー向けの非常に完成度が高いシューズだと思う。

【結論】
今回取り上げたシューズたちは、どれも老舗でプロ選手の使用も多いシューズであるが(Cronoは例外的にOEMメーカーだった時期が長いが)日本では流通量が少なく、試着できる機会が少ないシューズたちである。実際に使うとどのシューズもプロが使うことを想定したしっかりとした作りで、とても満足度が高く好感触なシューズであった。こういう体に触れるパーツたちは、単一の理想形がない分、理論的に突き詰めればよいものができるというわけではないだろうから、意外と、こういう老舗メーカーがスペックシートには表れてこないけれども優れた、絶妙な製品を作っているイメージがある。これらのシューズたちは、どれも個人的には自信をもって人に勧められるものであったし、少なくとも僕の場合、あるシューズが足に合っていると思っても、別のシューズを履いて、実はもっと合っている、と感じた場面が何度もあるので、もし今のシューズに不満がないとしても、試す価値はあるのでは、と思う。
この記事が、シューズ難民から、定番のシューズが決まっている人まで、様々な人に参考になれば幸いである。

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