Specialized S-Works Tarmac SL8 プチインプレ

今話題のSpecialized S-Works Tarmac SL8について、プチインプレをお届けしたい。
 

 
 
[ファーストインプレッション]
実は、またがって走り出した瞬間の第一印象は、”意外と進まない ”であった。低速では少し柔らかいような感触。でも、乗り込むと、なんでこんな速いんだ、と思う。私自身は、10年間、ラバネロS.A.T.に乗り続けてきて、もちろん、試乗会では別のフレームに乗ったこともあるが、しっかりポジションを出した状態で乗っているわけではないから、正直、Tarmac SL7とどう違うか、とか、競合他社のハイエンドと比べてどうか、などは分からない。あくまでも主観である。でも、とにかく速い。
ちなみに、下にも書くが、低速域での印象は恐らくジオメトリーのせいだろう。ラバネロはフロントセンターがかなり長く、直進安定性が極めて高い。なので、走り始めた瞬間に自転車が勝手にまっすぐ前に進んでいく感覚なのだ。
もちろんTarmac SL8が不安定というわけではないのでご安心を。そして、時速40㎞/hを超えてくると、これがエアロ効果なのか、と思う。実際、それは主観だけではなく、客観的に、同じコースを往復してみると、ラバネロの時よりも少ないワット数で同じスピードを出せていることに気が付く。公道だと全く同じ条件にそろえることはできないわけだが、データの分布を見てみると、明らかに違う。ロードバイクにDHバーをつけて走ったときと同じくらいだった。なお参考までにだが、2km強の直線の往復=4㎞強、スピードとして平均38km/h程度のコースで反復してデータを取ってみたところ、10wくらい低いワット数だった。なお、今回、ポジションを出すために、一体型ハンドルを使っていない。ということは、さらに速くなるということだ。
 
そして、主観的にここが違うと思うのが、ダンシングの時の反応。アタックだったり、コーナーの立ち上がりだったりでスピードの伸びが良い。これはかなりのアドバンテージになると感じる。脚も温存できるし、伸びの良さから勝負を決めやすいと思う。加えて、緩斜面では脚が吸い込まれるように進んでいく。
急斜面ではそこまででもないが、軽さが生きている印象はある。
下りに関しては、基本的にはニュートラル。自分の意思の通りに曲がってくれるので、不安はない。横風も低速ではさすがにロープロファイルホイールよりは気になるが、スピードを出しているときは不思議と、ほとんど影響を感じない。そして、峠のようなところを攻めると空気抵抗の少なさのためか、驚くほどスピードが伸びていく。これは速い。もちろん、それでも安定しているから怖くはない。

また、表現が難しいが、プレスリリースされている、コンプライアンスの向上について、なんとなく、こういうことなのかな、と感じることはあった。具体的には、路面が荒れているときでも、なんとなくしっとり接地している感じがあるのだ。もちろん、これはタイヤの影響も出てくるだろうが、少なくともTarmac SL8の純正タイヤ(S-Works Turbo Rapidair 2BR, 700x26mm;今回はチューブレスとして使用)とラバネロにつけているVittoria Corsa PRO(26C)では後者の方が圧倒的にしなやかなのだが、フレーム自体がしっかり路面をとらえている感じがあるのだ(逆に、タイヤのせいでごつごつ感はある)。
 
客観的データを取ったわけではないが、プレスリリースの言葉を信じる限り、今一番速いフレームの一つ、というのが結論になるだろう。とにかく速いし、バランスも良いし、非の打ち所がない。まだ耐久性などの評価はできないが、少なくともTarmac SL7がこの数年間ですぐ壊れたなどという話は聞かないし、みんな今も第一線で使っている。そういう点を踏まえると、総合的に競技者であればだれにでも勧められるレーシングフレームということになるだろう。
逆に、数年に一度モデルチェンジしてしまうので、長く・愛着を持って乗りたい人は別のモデルを選んだ方が良いのかもしれない。言いがかりのようなコメントではあるが。
 

 
[金属フレームでいかに戦うか]
これまで10年間乗ってきたRavanello equipe S.A.T.について、改めてインプレしたい。様々なパーツ構成で国内外問わず様々な道を走ってきたラバネロフレーム、改めて、良い点悪い点を考えたい。
もちろんであるが、リムブレーキ機械式コンポのフレームの戦闘力は、第一線では通用しないと思う。レースにおいてもサイクリングにおいても、趣味で楽しむ程度でしか厳しいと思うが、その中で出来る工夫も含めお伝えしたい。

まず、何といってもフルオーダーの設計であることは、他のどんな既製品のフレームにもないメリットだろう。吊るしのフレームでは、いくら同じポジションにしても、微妙に違う感覚が残る。
もちろん、夏と冬、鍛えている時期と鍛えていない時期などで、微妙にポジションを変えることはあったが、どんな場合でも、乗った瞬間にしっくりくるのはフルオーダーフレームならではだろう。 
そして耐久性。10年間で10万キロ前後は乗っているはずだが、びくともしない。海外も何度も行っているが大きなトラブルはないし、落車も何度かしているが、フレームはびくともしたことが無い。むしろ10年前から使い続けているパーツは(フロントフォークなども含め)一つも存在しない。

走行感としては低速から直進安定性が高く、まっすぐ進むという点がメリットだと思う。これはフロントセンターが他社フレームと比べてかなり長いことが理由だろう。そのため、両手放しも容易である。一方で、下りに関しては自分で曲げていく必要がある。車で言うところのオーバーステア・アンダーステアの概念が、自転車では成り立たないことは承知しているが、シャープすぎて、自分の意思より曲がりすぎてしまったり、ややもすれば不安定に感じたりするのをオーバーステアと表現するなら、アンダーステアというべき特性である。もちろん、車において、ハンドルの切り始めが遅れて、切り足りないときに更にハンドルを切る、いわゆる手アンダーはダメというのがセオリーだろうが、まさにそういうイメージというか、曲がりながら、さらに身体の重心移動をしてフレームを曲げていく感じになる。
 
一方で、そもそもの話として、10年前のバイクということで、色々、負ける点はある。一つは重量である。これに関しては、軽量パーツをつけていくしかないだろう。私自身も、ハンドルやサドル、シートポストなどは安全な範囲で軽量なものを使っていた。それでも、チューブラーホイールで7.6kg程度だったし、チューブレスだといつもは8kg弱だった。どちらにせよ、色々頑張ったとしても、レースでガンガン使えるパーツを選んだら、現実的には7kg台後半というところだろう。
そしてエアロ。エアロハンドルを使ったり、ディープリムを使ったり、色々工夫したとしても、ワイヤー外装だったり、リム幅の制限があったりする時点で、勝負にならない。
また、エンド部の剛性に関してはどうしても負けてしまう。私自身はナカガワのエンドワッシャーを使っており、フロントはそれでも良かったが、リアはそれでもダンシングの時暴れることがあったので、最新のカーボンフレームに負けている感じがする(ちなみに、ちょい乗りしただけだが、ラバネロの新作、アフィラータではリアの剛性がさらに上がっている感じがあった)。
一方で、BB剛性については最新のカーボンに負けていないか、むしろ勝っているくらいではないかと思う。私はさらに、ロータークランク=30㎜スピンドルのクランクを使っていたため、むしろ硬すぎるくらいに感じていた。なお、フルクラムクランク、デュラエースクランクなども使ったが、フルクラムクランクの時が最も脚に優しくて、ロータークランクが最もパワーが出る代わりに、最も脚には厳しい感触だった。
 
そして、ブレーキ。これは意外かもしれないが、スーパーレコードブレーキ、カンパ純正シュー、マビックカーボンリムの組み合わせでしっかりトーイン調整すると、ドライではディスクよりも制動力が高い印象だった(厳密な制動距離は測っていないが)。ディスクの方がドライ-ウエットで差が小さいことを考えると、間違いなくディスクの方が戦闘力は高いが、リムブレーキもそんなに悪いものではないと感じる。少なくとも、金属フレームは現状、ディスクブレーキにすると重くなりすぎるので、雨天時に走らないなら、敢えてリムブレーキという選択もよいのではないだろうか(といいつつ、市場から良い製品が消えていくのは時代の流れなので、今更リムブレーキでオーダーするかと言われると、必ずしもおススメはできないが)。

それらを踏まえると、ワイヤー内装+ワイヤレス変速、一体型ハンドル、ワイドリムホイールなどを組み合わせて空気抵抗を削減し、かつ、一つ一つのパーツを軽量化すれば、意外と金属フレームでも戦えるのではないか、という印象を持った。もちろん、繰り返しになるがトップレベルで第一線で戦うには厳しいことは間違いない。でも、例えば海外のアマチュアレースを転戦するなど、過酷な環境で使うのであれば、金属フレームは意外と捨てたものではないかもしれない。改めてラバネロフレームが好きになったし、海外グランフォンドなど、アマチュアレースに特化するなら、今の最新規格でもう一台組んでみるのも楽しいかもしれないと感じた。

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